万葉集

日本最古の恋のナンパ歌がエモすぎた|万葉集・雄略天皇の和歌を現代語訳で読む

日本最古の恋のナンパ歌がエモすぎた
koiwaka

原文

籠もよ み籠持ち
掘串もよ み掘串持ち
この岡に 菜摘ます子
家告らせ 名告らさね
そらみつ 大和の国は
おしなべて 我れこそ居れ
しきなべて 我れこそ居れ
我れにこそは 告らめ
家をも名をも

現代語訳

ねえ、その綺麗な籠を持って、
この丘で若菜を摘んでいる君。

ちょっとだけ、こっちを見て。
どこに帰るの?
名前は、なんていうの?

この広い国のことは、
だいたい全部知っているつもりだけど、
今、目の前にいる君のことだけは
まだ何も知らない。

だからさ。
この僕にだけでいい。
君の名前も、
君の居場所も、
全部、教えてほしい。

解説

○背景・登場人物

この和歌を詠んだのは、雄略天皇
舞台は、大和の国の丘。
若菜を摘む、名もなき少女に声をかけた場面とされている。

この歌は『万葉集』に収められており、
日本に残る最古級の“恋の呼びかけ”の歌とも言われる。

身分差も、立場も関係なく、
ただ「気になったから声をかけた」。
そのストレートさが、この歌の魅力だ。

○心理 × 和歌構造

この和歌が面白いのは、
前半と後半でテンションが完全に違うところ。

前半:観察と距離感

「籠」「掘串」「若菜を摘む姿」
細かく描写することで、
相手をよく見ている=関心があることを伝えている。

これは現代で言えば、
「ちゃんと君のこと見てるよ」というサイン。

後半:自己開示と自信

後半では一転、
「この国は自分が治めているんだ」と大胆に自己主張する。

恋愛心理的には、
好意+自信のセットは非常に強いアプローチ。

ただのナンパじゃなく、
「軽く見てない」「対等に向き合ってる」
というメッセージでもある。

この構造があるから、
強気なのに嫌味にならない。

恋の指針(1行で刺す)

本気の恋は、遠回しじゃなく“ちゃんと名前を聞く”ところから始まる。

Q
真面目な解説

『万葉集』全二十巻の巻頭歌。
籠は摘んだ若菜を入れる。掘串(ふくし)は土を掘るヘラ。「み籠」「み掘串」の「み」は美称で、相手の持ち物を讃える。「そらみつ」は「大和」にかかる枕詞。
古代、名にはそのものの霊魂が宿っていると考えられていた。だから、名告りは重要なことで、男が女の名を尋ねるのは求婚を意味し、女が名を明かすのは承諾を意味した。
「我にこそは告らめ」を「我こそば(こそ+は)告らめ」と読み、天皇がまず自ら名告るとする説もある。また、早春、娘たちが野山に出て若菜を摘み食べるのは、成人の儀式でもあったという。
この歌は雄略天皇の作とされるが、万葉の当時から約二百年も前の天皇なので、実作ではなく伝承された歌謡と考えられる。『古事記』には雄略天皇の求婚の話が多く出てくるので、この歌の作者ともされたのであろう。例えば、求婚した娘が関のほとりに隠れてしまったので、「端のすき(土を掘り返す道具)が五百も欲しい、それで岡を掘り返したい」と詠まれたとある。
草木が芽吹くかの訪れとともに、天皇の結婚は繁栄の象徴である。いかにも万葉らしい素朴で大らかなリズムは、巻頭を飾るにふさわしい生命力に満ちている。

引用:角川書店編『ビギナーズ・クラシック 日本の古典 万葉集』(KADOKAWA、2001年)

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編集長
『恋愛和歌集』編集長。
中央大学文学部卒。
みなさんの恋愛が、うまくいきますように。
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