日本最古の恋のナンパ歌がエモすぎた|万葉集・雄略天皇の和歌を現代語訳で読む
koiwaka
恋愛和歌集
愛しき 人のまきてし
敷栲の 我が手枕を
まく人あらめや
あの人が、
眠るときにそっと置いた
僕の手。
その温もりを、
他の誰かが
同じように受け取るなんて、
そんなこと、あるわけがない。
この歌を詠んだのは、大伴旅人。
万葉集を代表する歌人であり、
知性と感情のバランスに優れた人物だ。
この和歌は、
派手な恋や情熱ではなく、
日常の中にある「静かな愛」を切り取っている。
手枕という、
ごくささやかな接触に込められた
深い独占と信頼。
それが、この歌の核心だ。
この和歌の強さは、
感情を大きく語らないところにある。
「敷栲(しきたえ)」は、
白く柔らかな布を表す枕詞。
触感・温度・距離感を一瞬で想像させる。
その上で出てくるのが、
「我が手枕」だ。
物でも言葉でもなく、
自分の身体そのものを差し出す表現だ。
これは支配ではなく、
「選ばれている」という確信。
愛されているからこそ、
奪われる不安がない。
だからこそ生まれる、
静かな独占欲。
声高に叫ばない恋ほど、
実は一番、強い。
愛は、奪おうとしないときにいちばん深くなる。
「愛し」は親が子を、夫婦がお互いをいとしいと思う気持ちをいう。
「敷栲の」は「枕・手本・袖・床」などにかかる枕詞。
大伴旅人の妻大伴郎女は、筑紫に赴任してまもない初夏のころ病死した。その時旅人は六十四歳だった。この歌は左注によれば四十九日をすませたころのものらしい。
二年後の十二月、旅人は大納言となり、帰京することになった。その時詠んだ歌が続いて載る。
引用:角川書店編『ビギナーズ・クラシック 日本の古典 万葉集』(KADOKAWA、2001年)