燃えないのに消えない恋|新古今和歌集・人麿が詠んだ蚊火の片想いを現代語訳で読む
koiwaka
恋愛和歌集
春日野の わかむらさきの 摺り衣
しのぶの乱れ 限り知られず(新古今994・在原業平)
ほんの一瞬、あなたを見ただけだった。
目が合ったかどうかさえ、もう思い出せない。
それくらい短い、ただの一瞬。それなのに、心の中はもう、
元の形がわからないほど
ぐちゃぐちゃに乱れてしまった。春日野に咲く若紫のように、
ただ、そこに在っただけ。
香りを放つでもなく、誰かを惑わすつもりもなく、
ただ、美しかっただけなのに。それだけで、
私の中の静けさは跡形もなく踏み荒らされて、
戻る場所を失った。どうして、何もしていないあなたが、
こんなにも深く、私の内側を荒らしていくんだろう。
作者:在原業平
公の場で、ふと目に入った女性。
言葉も交わしていない、ただ「見ただけ」の出会い。
この恋は始まってすらいない。
なのに、感情だけが暴走している。
若紫:
春日野の花 × 美しい人
摺り衣:
近くで触れた視線
しのぶの乱れ:
信夫模様 × 忍ぶ恋
外の世界は静かなのに、内側だけが限りなく乱れている。
この和歌の怖さはここにある。
相手は何もしていないし、自分も何も始めていない。
それでも心だけが壊れる
一目惚れって、恋の中で一番理不尽なんだよね。
恋は、見た瞬間に始まってしまうことがある。